ウェブマガジン カムイミンタラ

1986年05月号/第14号  [ずいそう]    

結婚までに
佐藤 朝子 (さとうあさこ ・ 北海道新聞編集委員)

結婚までの貯蓄目標は男性305万円、女性292万円――富士銀行が春の結婚シーズンを前に全国の独身サラリーマンやOLにアンケート調査をしたら、こんな結果が出たそうだ。さらに「結婚までに女性が買いそろえたいもののトップは食器類」(28.1%)というあたりまで読み進んで、何年か前にジュッセルドルフで見せられたドイツ娘の“嫁入り道具”を思い出している。

ジュッセルドルフの日本企業に勤める24歳の女子事務員のお宅に招待されたのだが「14歳の誕生日から結婚準備にとりかかる」という習慣がこの国にはあるとかで、彼女の家の押し入れには、ふとんカバー、枕カバー、シーツ、台所のふきん、ナプキン、テーブルクロス、洗顔とバス用のタオル、それに皿、スプーン、なべなどの食器類がびっしり並んでいた。「これでもまだ冬用のベッドカバーもないし、寝具類も足りない。給料の約1割で買いためているので、給料が上がればもっと買えるのだけど」という。結婚の際、家と家具の準備は男の責任で、台所用具などは女の責任なのだそうだ。銀婚式(25年)くらいまでは買わなくてもすむように準備するのだという。だから品物集めに懸命になるのは本人や親たちだけでなく、14歳以上の娘には誕生日やクリスマスの贈りものにも、この種の品を贈るのが常識―と聞いた。

せっせとお金をためて、結婚がきまったら一度に“品物集め”をする日本型とコツコツと品物を買いためてゆく西ドイツ型と、それぞれに暮らしの伝統や生活習慣が背景にあることで、どちらがどうというつもりはないが、しかし、個人的心情としては西ドイツ型に魅かれる。一つ一つ買いため、または心をこめて贈られた品物の中で暮らしていれば、愛着も深く新しいものに目移りすることも少ないだろうな、と。モノ不足の中で育ち、買いためようにも集められなかった昭和ヒトケタ生まれの「果たせぬ夢」のせいかもしれないが。

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