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1986年05月号/第14号  [ずいそう]    

拙速
景川 弘道 (かげかわ こうどう ・ 版画家)

いも版の香川画伯はどんな大作でもかるくこなし得る達人だが、いも版にとりついてからは他にはいっさい手出しをしない。スペースは切口が最大限でせいぜい掌ぐらい。それに力を集中するから神韻縹渺となる。

僕はやたらにあれこれ色目をつかい、手を出しては噛まれることになる。

しかしなまけものに生れついてゐたので、何かで自分をしばっておかないと仕事が進まない。そこで考えついたのが北見千景なぞと言うこけおどしの計画だった。北見は名所も旧蹟もないやぼな街だが、街が三段丘になってゐて多少の変化があるので、おなじ場所を春夏秋冬、朝昼晩なぞ工夫してどうにか300点ぐらい出来た。もの知りの友人に話したら、そんなのは5、600出来たらもう立派に1,000で通用することに昔からなってゐると言った。しかしそれでは気がすまないので3年がかりで1,000まで作った。

それから十数年、あちこちの谷を埋めたり、山をけずったりして住宅造成をし、街の中を走っていた汽車を地下にもぐらせ、そこかしこに陸橋をつくったりして、ひどく様相が変ったので続千景を手がけて500ぐらいのところまで進んだ。その間に諸外国を廻ったり、国内のあちこちを走り廻ったりして繪のたねがいっぱい出来たので、じっくりなぞはしてゐられないからやたらと先を急いで手が速くなり、それが習性となった。そうなるとじっくりやるほどに生気が失せてしまう。習性とは怖きもの。

今年は元旦からはじめて、大は30号から、小はサムホールぐらいまで100点となった。すべて4版10色から6版18色までの多色版であるから粗製乱造もいいところ。下手なてっぽうも何とやらで何とかいけそうなのもないわけではないが、泪ぐましい駄作の山である。肥えふとったバレンだこを撫で乍ら彫り屑や反古紙をルンペンストーブに投げこんでは寒い冬のなごりを楽しんでゐる。
(用字・かなづかいは原文のまま)

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