ウェブマガジン カムイミンタラ

2001年05月号/第104号  [ずいそう]    

エゾリスが帰る頃
寺田 文恵 (てらだ ふみえ ・ 作家 栗沢町図書館司書)

玄関フードに置いてあるヒマワリの種が、あまり減らなくなってきた。冬のあいだ、毎日餌を求めて我が家の周辺を走り回っていたエゾリスが、このところ姿を見せなくなっている。木々が芽吹いてきたのだ。

秋にやってくるカケスのためにと、収穫しそびれたトウキビを、納屋の軒先や木の枝に吊り下げておくのは以前からの習慣だった。

ところがここ数年、それまで現れたことのなかったエゾリスが、カケスの餌をちゃっかり横取りするようになってしまった。子猫なみの大きさのリスが何匹もくるのだから、トウキビは1週間もしないうちに食べ尽くされてしまう。

予定が狂ってしまったものの、ふっくらした冬毛のリスたちが、納屋の板壁を忍者みたいに伝って遊んでいるのが愛くるしくて、とうとう『ヒマワリの種・徳用大袋』を購入。カップ1杯を窓枠に散らすのが冬の朝の仕事に加わった。

野生動物に餌付けするのは良くないという向きもあるが、ヒグマならともかく(幸いなことに、クマまではやってこない)、小さな動物が家の近くにやってくるのを見ると、気持ちがなごむのは事実。せいぜい歓待してやろうと思うのも、ごく一般的な心理とお目こぼし願いたい。

ともあれ、リスたちは思いのほか人懐っこく、家の者が近づいても、すぐに逃げたりはしない。窓枠に餌が用意されるのを待っていたかのようにやってきては、行儀よく坐って、ヒマワリの種を食べていく。満腹すると、前脚で尻尾を抱き込んで毛づくろいをしたりする。納屋を駆け回るうち、ぶら下げてあったポリ袋に飛びついて足を滑らせ、コテンと床に転落するひょうきん者もいた。

こうして冬の日の午前は、居ながらにしてささやかな自然動物園気分が味わえたものだ。

雪が解け、新鮮な木の芽や草の実が食べられるようになると、リスたちは広い自然へと帰っていく。安全と食糧の保障された生活よりも、野性に生きるほうがいいらしい。

 「こんどの冬まで、無事に生き延びろよ」

2日前から減っていないヒマワリの種を眺めながら、わたしは今、柄にもなく、ちょっぴり感傷的になっている。

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