ウェブマガジン カムイミンタラ

2001年03月号/第103号  [ずいそう]    

新米百姓
森 京一 (もり きょういち ・ 農業)

百姓を始めた。化学農薬、化学肥料は使わず、おいしい野菜をつくろう。ただ、いくら一生懸命栽培しても、それを売ってお金にしなければ生活していけない。自営業の人には当たり前のことでも、月給をもらっていた身には新鮮な日々だ。

帯広市の住宅街の一角に、5反の畑を借りて20種類以上の野菜を育てている。ニンニクやトウガラシを漬け込んだ焼酎を水で薄めて散布したりしているが、虫には勝てない。見栄えの良くない野菜は市場では扱ってもらえないので、知人・友人に会員になってもらい、野菜の詰め合わせを全国に送っている。

慣れない作業が多く、腰は痛いし失敗ばかり。いつ種をまこうか。そろそろ収穫できそうだ。病気にかかったナスはどうしよう。日照り続きだが、水はどのくらいやったらいいのか。もちろん、先輩農家に相談はできるが、決めるのは自分自身。失敗しても誰のせいにもできない。

チンゲン菜の苗が花芽を持ったことがあった。高温が原因だったらしい。翌月の野菜セットに入れるはずだったが、花の咲いた菜っ葉など送れるわけがない。呆然とした。

「落ち込んでても仕方ないでしょ!」

妻の一喝でハッと我に帰った。自分たちの野菜を待っている人がいる。会費は先にもらっているのだ。自分たちがやらなければ仕事は進まない。結局、その苗は全部捨てて、新しく種をまき直した。

そんな失敗を繰り返すたびに思い出す言葉がある。3年前、九州の農家で研修を受けていたとき、休職して農業を学ぶ会社社長に出会った。

「人間は結局、自己責任なんよ」

畑仕事の合い間に汗をふきながら話した彼の言葉の意味が、今はものすごくよくわかる。

責任を負うことはとても重いけれど、誰かに指示されることもなく、夫婦二人で好きなように生きていけることは幸せだ。これで、もう少し収入があれば言うことないんだけどなあ…。

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